1年生からiPadを使った教育を実施している日本女子大学附属豊明小学校。児童たちは6年間かけて着実にノウハウを学び、卒業するころには自分でリサーチしてプレゼンテーションを作成し、発表できるまでレベルアップするそうです。一体どのようにしてiPadでの教育を進めているのか、田中先生、稲子先生にお話を伺いました。
本校ではもともとノートパソコンを使っていたのですが、A4サイズのものを持ち運ぶのは手間になるので、コンパクトなiPadを導入しました。軽くて小さいノートパソコンもありましたが、私立小学校ではiPadを使うところが増えていましたし、小学生にはキーボードがあるよりも指で直感的に使えた方がいいと思いました。
また児童からすると、パソコンの前では構えてしまうところがあります。一方iPadは抵抗が小さく、「壊れたらどうしよう」といった心配をせずに積極的に使っています。
本校では1年生からiPadを使い、まずは基本的な使い方やロイロノートの利用法を学びます。3年生でローマ字入力、4年生でインターネットの使い方を習得。3年生から社会科などの他教科で利用するようになり、iPadを使ったプレゼンテーションを始めます。
2年生から高学年にかけて継続的にプログラミングも学習します。ビジュアルプログラミングとアンプラグドプログラミングから始め、徐々にロボットを使ったフィジカルプログラミングにステップアップして学びます。
また、6年生で毎年行っているのが、「学校の見どころ紹介」。これは新しく入ってきた1年生に対して、6年生が学校の見どころをまとめて、プレゼンテーションするという活動です。1年生は学校のことを先輩が紹介してくれるのが楽しいようですし、6年生はこれまで身につけた技術を活用して準備をして発表をするので、やりがいを感じて取り組みます。
デジタルデバイスを導入するにあたっては、ベテラン教員から反対されることも多いのではないでしょうか。しかしそういう場合も「ICT機器を活用する授業とはいえ、いつも通りのことをやれば大丈夫です」と伝えることでハードルが少し下がるようです。
ベテラン教員はデバイスを使いこなすことがむずかしくても、授業を面白くするノウハウをたくさん持っています。それをどうiPadで実現するか提案できれば、ICT機器を活用した効果的な授業ができるはずです。iPadを使いこなせる教員と経験値の高いベテラン教員がタッグを組めば、最高のパフォーマンスが発揮できるはずです。
現在、本校は共有用のiPadしかありませんが、今後は一人一台の環境に移行してもいいかもしれないと感じています。これは以前から検討課題でしたが、コロナ禍を受けて、直接手に触れるタブレットを学校内で共有すべきかという問題が生まれたことも、一人一台体制に移行するきっかけの一つになると思います。
それだけでなく、多くの私立小学校がオンライン授業を始めていることで、教員の意識も変わってくると感じています。公立校がGIGAスクール構想の中でデジタルデバイスを利用するようになる中、私学としてどう動いていくのか考えなくてはならないでしょう。
それに一人一台持つようになれば、家で学校と同じように学習ができ、より効率的な宿題提出・添削もできます。さらに紙と鉛筆だけで学んだり表現したりできる児童もいれば、それではあまり手が進まないという児童がいるのも事実。個人用のiPadを持たせることで、学習や表現の幅が広がると思います。
実際に、現時点でもアナログからの変化は感じています。教室ではなかなか挙手ができない児童もZoomでなら思い切って発言ができたり、ロイロノートの提出箱には自分の意見を出せたりしているようです。そういう児童に「最近いいね」と一言かけてあげるだけで、モチベーションが上がっている姿も見られます。
デジタルの良さと、対面してのアナログの良さをそれぞれ使い分けることで、より深い学びに導くことができる。そんな可能性を感じています。
本校ではコロナ禍を受けて休校が決まったあと、すぐにオンライン授業を始めたわけではありませんでした。しかし休校が長引きそうだとわかり、何か対応が必要だろうとなったのです。学校として、学びの場をどう設けるか、学校と児童、そして児童同士のつながりをどう保つか。これを軸に考えた時、オンラインで対応できるのではないかという結論に至りました。
そこから実際どうすればいいか検討し、利用するアプリなどを選定していきました。まず、休校前から使っていたロイロノートは必要です。そしてZoomを使い始めました。Google ClassroomやSkypeなども検討しましたが、ご家庭からするとユーザー登録をするということがハードルに感じられると予測し、新規登録のいらないアプリをメインで使っていった形です。
Zoomのセキュリティ問題がニュースになったので心配される保護者もいらっしゃいましたが、きちんとパスワードを準備する、入室管理を徹底するなど説明してから始めたので、特にクレームなどはいただいていません。むしろ、「通学ができない中でも双方向の対応をしてくれた」と喜んでいただけていると思います。
オンライン授業を始めるときにはICTサポート窓口を用意して、わからないことは問い合わせてもらい教員が対応しました。初めのうちはつきっきりでしたが、5月にはかなり減りました。家庭の協力があったからこそ可能になったのですが、コロナ禍を受けて、各家庭でロイロノートやZoomが使える環境が整ったのはメリットだったと思います。
オンライン授業を始めてみるとうまくいかない事やトラブルも生じましたが、教員で情報交換をしたり、クラスで考えたりして解決策を見いだしました。学校全体に学び合うムードが高まったのは功績だと言えます。中でも児童が自分たち自身でルールを決めるに至った例もあり、これらは児童たちにとって、大きな成長になったのは間違いありません。この出来事は私たち教員の期待を超えた出来事でしたし、広い意味でのアクティブラーニングにつながったと思います。
今、ICTを導入したいけどどうすればいいかわからないという学校もあると思います。各学校に詳しい人がいるとは限らないので、そういう場合は業者の方など専門的な人に相談に乗ってもらうのも手です。導入後も運用面で相談することもあるでしょうし、いい関係性が構築できたら学校としても安心できます。
またいざiPadを導入しても、どのように利用していいかわからないこともあるでしょう。そういう時は、学校生活の中でどこにiPadがあれば便利かという観点で考えるのがおすすめです。例えば本校では図書館にデスクトップパソコンを置いていて、図書検索をできるようにしていました。しかしiPadを10台入れて、児童たちがiPadを手に持ちながら本を探せるようにしました。
iPadをどう使うかと考えるのもいいのですが、普段の学校生活や児童の様子を振り返ってみて、「ここにiPadがあれば便利だな」というポイントを探してみてはいかがでしょうか。
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