電気通信大学は、1918年に創設された無線電信講習所を起源とし、1949年に設置された東京・調布市にある国立大学。「日本全国に開かれた大学を創ろう」という建学精神に基づき、学部をもつ国立大学では唯一大学名に地名を含まない。
複数のLMS(Learning Management System:学習管理システム)の学習データをLRS(Learning Record Store:学習履歴記録)に取り込み、LA(Learning Analytics:学習分析)で分析可視化。教育データの有効活用を推し進める、電気通信大学 eラーニングセンター 高木正則 准教授に話を聞いた。
電気通信大学
― 学習分析システム導入のきっかけを教えてください。
高木准教授:コロナ禍でLMSの利用が進み、これに伴い多くの学習履歴データが蓄積されました。一方で、学習の支援に活用できる有用な知見が含まれている可能性のある学習履歴データは活用されていませんでした。コロナ禍ではリモートで学習する学生の状況を把握し、よりきめ細やかな学習者支援が必要です。そこで学習分析システムの導入に向けて動き出しました。多様なデータをリアルタイムに可視化し学生の支援につなげたいと考えたのです。
電気通信大学 eラーニングセンター
高木正則 准教授
― 学習分析システムでどのようなことを実現したのですか。
高木准教授:LMSの学習履歴データと学務情報システムの成績データを連携しました。私たちはこの学習分析システムを「UEC-LAP(ラップ:Learning Analytics Platform)」という呼称で学生教員に提供しています。
「UEC-LAP」で学生は、講義回ごとの自身の小テストやレポートの得点の推移、クラスの各データの 分布の閲覧を通して、自分の学習状況を客観的に把握できるようになりました。教員の手を介さないリアルタイムなフィードバックを実現したのです。
教員目線では学生の小テストやレポートの得点、講義資料(PDFの教材) の 閲覧時間を把握でき、学生の成績と関連づけた分析が容易になりました。
― 「UEC-LAP」の開発、運用においてご苦労はありましたか。
高木准教授:本学ではWebClass、Moodle(ムードル)、Google Classroomと3つのLMSを利用しています。システム的にはこれらのデータを統合する上で多くの苦労がありました。データは過去5年分をLRSに蓄積しましたし、各種コードを一元的に整理しなければなりませんでした。システム開発を担った三谷商事さんには柔軟な対応をしてもらえて助かりました。
2024年春から実運用を開始したところですが、まだ全ての教員の利用には至っていません。まずは私自身の講義の中で得た手応えや成果を共有し、発信している段階です。
― 「UEC-LAP」を講義の中でどのように使われたのですか。
高木准教授:大学1年生「コンピュータリテラシー」の場合、全15回の講義で毎回小テストとレポートがあります。11回目の講義で「UEC-LAP」を使った振り返りを行いました。
Googleフォームで「目標成績」「小テストの平均得点(学生自身の感覚値)」「小テストの平均得点(UEC-LAPのデータ)」「UEC-LAPでの成績分析を見ての感想」「今後の改善点」といった項目を入力してもらい、「UEC-LAP」での分析結果をどう活用し改善につなげるのか学生自身の気づきを促したのです。
さらに生成AIを使い、個別最適化した動的な振り返りも行いました。最終的には自身で適切に振り返り、自律した学習者となるのが目標ですが、その足場かけとして生成AIを用いたのです。
― 「UEC-LAP」で学生の変容は見られましたか。
高木准教授:11回目の講義の後、「より意欲的に取り組めるようになった(3名)」「テキストを事前に読む時間を少し増やした(7名)」「得点があがった(4名)」「予習に取り組むようになった(4名)」「意識の向上が見られ、自宅学習環境を構築し、勉強時間を増やした」など30名から改善したという声がありました。変化なしは6名、低下は1名でした。
予習動画や資料を閲覧する学生が増え、運用開始から大きな手応えを感じています。
― 他科目での利用を望む声もあるのではないでしょうか。
高木准教授:その通りです。UEC-LAPを利用した後に実施したアンケートでは、「UEC-LAPで全科目の分析結果を閲覧したいですか?」という問いには92.3%の学生が「閲覧したい」「どちらかというと閲覧したい」と回答しています。
― 具体的にどのようなお声がありましたか。
高木准教授:「努力が数値としてどの程度推移しているか確認できればモチベーションにつながる」
「全てのデータがまとめられていれば学習ログへのアクセスが容易になり振り返りを行うハードルが下がる」
「学習習慣や、それに伴う成績に基づいて自分に向いている学習計画を立てることが可能になる」
など多くの声が寄せられています。
― 次の展開についてお聞かせください。
高木准教授:より使いやすくしたいです。他者との比較ではなく、過去の自分との比較によって自身の成長をわかりやすくしたいと考えています。例えばGPAといった成績指標の推移やその要因の分析などです。学習分析において有益なデータは限られていますので、有益な蓄積データを拡大する、一方で不要なデータを除きたいです。
また、社会が大きく変わる中、教育方法や学習方法もそれに対応して変わらなければ社会から閉じた学びになってしまいます。「学習分析システム」は、学習観を変革するツールとしたいのです。学習者が自分自身の学習活動に能動的に関わり、自らの学習を調整する自己調整学習への転換に欠かせないICTツールです。でもツールですから、それを有効に活用するのは教員と学生次第です。特に、学生に適切な利用を働きかける教員の役割は重要です。最終的には学生を成長させてあげたいという教員一人一人の熱意がポイントになると考えています。
― 「学習分析システム」がパッケージ化されるそうです。
高木准教授:三谷商事さんとともに作り上げた一員として、システムがパッケージ化されることは喜ばしいことです。本学だけでなく広く他の大学でも使ってほしいです。学生、教員にとって学習改善の気づきにつながると確信しています。
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