【iPad導入事例】埋没しそうな生徒の個性をiPadが開花させる

和歌山大学教育学部附属中学校様

2012年から段階的にデジタルデバイスを取り入れ、現在は生徒全員がiPadを所有している和歌山大学教育学部附属中学校。学校だけでなく家でもiPadが使えるようになると、どんな変化が生まれるのか。生徒さんや保護者の方はどんな感想を持っているのかなど、矢野先生にお話を伺いました。

まずは教員用から購入し段階的に活用の幅を広げる

教諭
矢野 充博 氏

本校ではまず、2012年くらいから教員が個人で購入したiPad miniを活用し始めました。翌年には全教室にApple TVを設置。その後、教員が使用に慣れた2015年に生徒が共有で利用するiPadを36台購入して、翌年に合計108台の導入となりました。その後もICT環境を整え、2019年には保護者にご負担していただき、生徒全員が自分のiPadを持っているという現在の体制が整いました。

導入の準備にあたり、1人1台のiPadを持たせるとなると、保護者の方が不安に思うこともあるだろうと考えました。そこでどんなことが不安かを在籍している生徒の保護者に尋ねてみました。その結果、「目的外の使用はしないか」「家や学校で壊してしまわないか」「費用が高くならないか」という点を懸念されていることがわかりました。

そこで「フィルターをかけることで教員側からある程度制御ができる」「端末補償サービスに加入するため、何度壊しても無償で修理ができる」とご説明し、費用面も何にどのくらいかかるかということを明確にしてご納得いただけました。

授業の壁を越えて活用し、学校生活に根付くiPad

本校では、あらゆる授業でiPadを活用しています。具体例をご紹介すると、理科の授業では融点の測定実験をして、数値をGoogleスプレッドシートに入力して、クラス全体で共有してグラフ化して考察へとつなげることもしました。

他にも国語の授業ではロイロノートを使ってことわざの意味をまとめたカードを作ったり、社会の授業ではGoogle Earthを使って地球を平面ではなく立体的にとらえたりといった活用をしました。実技教科でも利用していて、保健体育では臓器がどんな役割を果たしているかアニメーションでまとめました。

今ではこのように生徒たちがiPadを使いこなしていますが、もちろん最初から今の状態だったわけではなく、ここに至るまでには大きく分けて三つ段階を経てきました。一つ目が、既存の学習ツールとの置き換える段階です。iPad導入前とやっていることは同じで、使っているツールがただiPadに変わっただけの状態でした。

二つ目が、iPadでしかできない使い方をするという段階です。紙とペンしかなかった時代から、デジタル端末を使うようになり新しい取り組みが始められました。

三つ目が、チームで共同して新しいものを創造する段階です。個人的に何かを調べるだけではなく、班を組んでそのメンバーと一緒に、今まで作れなかったものを一から作り上げています。

現在では生徒の学校生活にiPadがしっかり根付いています。例えば、夏の自由研究でも、まとめ方は生徒に任せたのですが、140人中120人がこれまでのレポート用紙ではなくiPadを使ってまとめました。そして、全員が自分の研究のよさを1分のムービーにまとめるというようなこともしています。

共有ではなく1人1台所有することでメリットが生まれる

生徒1人ひとりがiPadを持つようになってから1年後、生徒にアンケートを取ったのですが全体の98%が「iPadを家に持って帰れるようになって良かった」と感じていることがわかりました。

iPadを学校で共有していたころと比べると、生徒は授業以外でも自分の使いたいときに使えますし、自分のデータを端末に残しておけます。また、授業中に調べきれなかったことを休み時間や下校後に調べられる、動画等を作成するなど制作に時間のかかるクリエイティブな使い方をするなど、たくさんのメリットがあります。

もちろん、家でも学校でも自由に使える分、しっかりとルールを決めることが大切です。しかし教師からあれもダメ、これもダメとは言わないようにしています。私たちとしては、教師が色々な制限をかけて生徒の自由を奪うのではなく、生徒自身で何が必要か、何をしてはならないかを考えることを通して、心を成長させてほしいと思っているんです。

どんな生徒でも創造性を発揮する場所を生み出す

旧来のやり方では、在学中に手を挙げて発表したり自分の思いをうまく表現したり、創作物を作ったりもせずに静かに卒業していってしまう生徒がいました。しかしそういう生徒も思いを形にできないだけで、本当は素敵な感性を持っています。

そうした生徒もiPadを使えばアプリを通して楽しく自己表現できるので、これは大きな変化だと思います。それも教師側から働きかけてやらせるのではなく、本人が楽しんでやっているのもポイントです。埋没しそうな個性が発揮できる場を、iPadが生み出してくれました。

また、iPadは自分一人で使うデバイスというイメージがあります。たしかに自ら問いを立てて答えを探すのにも役立ちますし、そうして見つけた答えを発表するのにも使えます。

ただどの授業でも、友達と情報を共有したり、1台をみんなで見ながら使ったりもしているんです。例えばペアになって英語のスピーキングを練習したり、理科の解説ムービーをチームで作ったりしています。このように、個人だけではなくチームで創造性を発揮するのにも役立っています。

コロナ禍でもiPadを使って生徒が主体的に活動する

本校では休校宣言を受けて2月28日を最後の登校日とし、その日のうちに生徒のiPadにZoomを入れて使い方のレクチャーをしました。3月2日に教員向けのZoom研修会を開き、翌日から3月19日までオンライン補習、その後、進級をした4月17日からオンライン授業を開始しました。オンライン授業では国語、社会、数学、理科、音楽、技術、家庭、保健体育、英語、道徳の授業を行いました。

実際に始めてみて、オンライン授業への切り替えはある程度スムーズにできたと思います。これはコロナ禍前からiPadを用いてロイロノートで意見を発表したり、Google Classroomで資料の配布や提出をしたりといったことをやっていたからでしょう。

休校期間中は授業以外に新しく色々な取り組みをしたのですが、その中でもやってよかったと思うのがワンウィーク・チャレンジというプロジェクトです。毎週月曜日に今週頑張ることを生徒が自ら決めて、毎日できたらどんなご褒美を獲得するかも考えてもらいました。プロジェクト終了後に生徒に確認しましたが、全体の8割が自分の決めた目標を達成できたようです。

それから、新しい曲を作るというプロジェクトもありました。まずは生徒から歌詞を集めて、音楽教員がそれをまとめて、曲もつけます。完成したものを生徒が聞いて、各自で歌声を録音。さらに生徒に春をイメージする20秒のアニメーションを作ってもらい、曲とアニメーションをあわせてムービーに仕上げました。これ以外にも生徒が自由に参加できるプロジェクトを用意したのですが、生徒の成果物をみんなで共有することで、生徒の意欲を高めることにつながったと思います。

導入時には明確なビジョンを持つことが大切

文部科学省がGIGAスクール構想を推し進めていることもあり、iPadのようなデジタルデバイスの購入を検討している学校さんは多いと思います。そこで私から言えるのは、共有用を用意するのではなく1人1台持たせて、家庭に持ち帰って活用させることはとても良い効果があると思います。壊れたらどうしようとリスクを懸念する気持ちもわかりますが、それよりもメリットの方が大きいと実感しています。

また、導入するにあたって、「このデバイスをこういう風に使わせたい」「こういうことを実現したい」「子どもたちのこんな力を伸ばしたい」という思いを持つことが非常に大切です。どう使っていくかというビジョンも持たずに、「とりあえず、やらなくてはいけないからやる」「安いし手に入りやすいから、このデバイスにする」と始めてみても、効果は薄いでしょう。機械ありきではなく、それを通して何をしたいかを考えてみると、より意味のある活用ができると思います。

和歌山大学教育学部附属中学校

所在地:和歌山県和歌山市吹上1丁目4-1
TEL: 073-422-3093
http://www.ajhs.wakayama-u.ac.jp/
設立1947年

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