【連載】榎本裕介の “教育×Google Workspace” 最前線
Google Workspaceを教育現場の最前線で活用されている昭和学院中学校・高等学校 教諭(理科・情報)博士(工学)榎本裕介先生にお話を伺いました。
現場の先生方がかかえる、ICT活用についてのいろんな悩みに回答いただきます!
はじめに
新型コロナウイルス対応がいつまで続くかわかりませんが、休校となった2020年の春に比べると多くの学校がオンライン授業を取り入れるようになってきたように見えます。昭和学院中学校・高等学校においては、第6波の最中に1月中旬がちょうど入試期間だったこともあり、生徒を一度も登校させることなくオンライン授業に移行しました。ツールそのものの使い方は公式ヘルプをはじめ様々なウェブサイトで解説されていますが、実際に授業をやるとなると何をどうしたらよいのか迷う先生も多いのではないでしょうか。今回はGoogle Meet(Google Workspace for Education Fundamentals:無料版)を前提とした双方向オンライン授業の具体的な方法論について、PCとタブレットそれぞれの特徴を踏まえながら紹介します。
Google Meetの始め方
Google Meetはブラウザさえあれば実施できるオンライン会議ツールです。日常的にZoomを利用しているユーザーにとってはZoomのURLが他人から送られてくれば気軽に会議を開始できますが、全くの素人にとっては「インストール」という言葉だけで壁を感じることもあるでしょう。その点、Google MeetはPCであればブラウザだけで稼働するので説明の手間が1段階減ります。タブレットであればいずれにせよアプリが必要になりますが、多くの学校において教員はタブレットではなくWindowsなどのPCを使っていると思われます。生徒はPCを使っていてもタブレットを使っていても新しいツールに瞬時に順応します。しかし、学校における新しいITツールの普及でもっとも大きな解決すべきハードルは教員への周知です。そのハードルという面で、現存のオンライン会議ツールの中でGoogle Meetはもっとも適切な選択肢であるといえます。
Google Meetの会議コードを生徒と共有
すでに学校において何らかの連絡プラットフォームが準備されている場合、またはデジタルでの連絡ツールが一切準備されていない場合、Google Meetを用いてオンライン授業をするためには「会議コード」と呼ばれる10文字の文字列を用いましょう。ブラウザでGoogle Meetにアクセスし「新しい会議を作成」→「次回以降の会議を作成」で生成できます。「meet.google.com/」に続く10文字の文字列さえあれば、授業担当者と生徒をつなぐ固有の部屋に入ることができます。これを何らかの形で教員と生徒で共有します。紙に印刷して郵送しても、学校のウェブサイトで一覧で表示しても、メールなどで一斉送信でも、生徒に伝われば問題ありません。生徒はブラウザのGoogle Meetまたはタブレット版のアプリにおいてこの会議コードを入力すればオンライン授業が実施できます。
この方法を用いる場合、高校生がクラスをまたいで物理と生物の選択授業を取ったり、保健体育の授業で男女がわかれたりしたときに例外の説明が煩雑になりがちです。また、たった10文字の文字列と言っても毎回入力するのは面倒ですし、それを省略するために「ブックマークに保存しておいて」という説明もなかなか周知に手間がかかることが想像できます。そこで推奨したいのがGoogle Classroomとの連携です。
Google Classroomを介したGoogle Meetの開始
Google Classroomは対面授業であっても非常に有効な授業支援システムでこのコラムでも紹介させてもらいました(前編・後編)。Google Classroomの各クラスを開いた画面の左側に「リンクを生成」のボタンがあります。こちらをクリックすれば準備は完了です。授業の際には教員も生徒も、大学の講義室を移動するように時間割に従って指定された部屋に移動する感覚でオンライン授業を実施できます。上述の選択授業の際にも、事前に生徒に各Classroomに所属しておいてもらえれば教員側の登録の手間もなく準備ができることが大きなメリットです。初めてオンライン授業をする先生方にとっては、いきなりGoogle Meetと、Google Classroomという、2つのサービスを理解しなければならないのかと身構えてしまうかもしれません。しかし、このシンプルなUIで構成された2つのサービスは、学校全体のオンライン授業をデザインする上では教員の労力を最小限に交通整理をしてくれるツールであるといえます。
Google Meet内でできること
ビデオ通話
解説するまでもないかと思いますが、ビデオ会議アプリですので互いの顔を見ながら音声でのコミュニケーションができます。通信環境や端末のスペック次第で負荷が大きすぎる場合にはカメラをオフにすることでスムーズな通信が維持できます。2022年1月現在、ほとんどの家庭用ネットワーク環境でクラス全員のカメラをオンにして授業を進めても問題ないです。授業をするうえでは生徒のマイクは基本的にオフで、発言の際のみオンにするといったルールがよいです。その際には、生徒に「挙手」ボタンで発言の意思表示をさせ、「マイク」ボタンで一時的にマイクをオンにして発言させる方法をまず教えておきましょう。
カメラについては可能であれば全員オンとして、授業を受ける生徒たちの表情を把握して授業ができることが望ましいです。はじめに記したとおり、動画授業サービスより現職の教員が勝る点は生徒の学びの状況を把握できることですから。
チャット
PC版、タブレット版でもチャットでコミュニケーションを取ることができます。ビデオ会議アプリでわざわざチャットが必要なのかと思うかもしれません。しかし、授業においてチャットは対面授業では拾いきれない生徒の意見を拾うことができます。実際、私自身が2020年の春に授業を担当したある中1の生徒が、ほぼ毎時間の授業でチャットを用いて質問をしてくれました。アグレッシブに授業に取り込む子なんだと思って三者面談を迎えたとき、保護者から衝撃のコメントをもらいました。小学校のころは授業中に発言するなんてことが一度もなかった引っ込み思案な性格だった、と。チャットという授業においては新しいコミュニケーションツールが、生徒の学びの道を拓いたのです。リアルな発言と違い、チャットは教師のトークの流れを邪魔しません。タイミングのよいときに拾って授業展開に取り入れることができます。オンライン・オフライン問わず、授業において取り入れるべき大切なコミュニケーションであるといえます。対面授業で高校生が同時に何人も意見を言うなんて、なかなか見ない光景だと思います。下の画像は授業後に遡って撮ったスクショですが、こちらからの発問に対して少なくとも5人が「13:37」同時刻に意見を書き込んでいます。授業担当者としてはこんなにスムーズに生徒が意見を出す授業、とてもやりやすいです。
画面共有
Google Meetでは授業に用いる資料を画面共有という形で生徒の画面上で拡大して表示させることができます。上の画像もその画面共有で授業資料を提示している状態です。PC版では画面共有のボタンから、デスクトップ、ウィンドウ、タブと異なる段階の画面を共有できます。教室では効果的なプロジェクタを用いた資料提示も、それをカメラを介して映すとなると解像度が落ち、視認性がかなり落ちます。可能な限り画面共有を活用することが望ましいです。PowerPointや電子教科書アプリなど特定のアプリケーションのみを共有するのであれば「ウィンドウ」、Chromeブラウザ内でGoogle スライドを見せたり、特定のウェブサイトを見せるのであれば「タブ」が望ましいです。「デスクトップ」は教師自身が見ている画面をそのまま見せることができるので操作としては直感的ですが、PCへの負荷が大きいこと、生徒には見られたくない情報まで見られてしまう懸念があることから、あまりお勧めできません。タブレットではPC版の「デスクトップ」に相当する「画面のブロードキャスト」のみが画面共有の方法です。すなわち、うっかり起動中のアプリで生徒に見られてはいけない成績処理中のシートとか、職員会議のPDFとか、事故が起きないように入念な準備が必要です。
主催者向け管理機能
会議を作成した主催者はここまで紹介したマイク・カメラのオンオフ、チャット、画面共有について主催者以外ができることを制限できます。授業においては特に制限することもないかと思いますが、例えばチャットにて不適切な言動を繰り返して授業が進まないとか、不要な画面共有をして授業を妨害するといった行為を止めることはできます。学校によってこのあたりの制限には差がでるかもしれませんが、教育機関である以上、制限をかけて未然に防ぐよりも起こったときにそうした迷惑行為も何がどう悪影響を及ぼすのか指導し改善させていくことが大切だと考えます。
「クイックアクセス」のスイッチは必ずオンにしておきましょう。こちらをオフにしておくと「主催者が最初に入る必要がある」という状態になります。担当教員が入らない限り開始できなくなり、休み時間や放課後に教室の鍵をかけておくような機能です。しかし、学校において「授業担当者が不在のため代講を行う」という状況は必ず起こります。オンラインで教室の鍵に相当するアカウントのログイン情報を他人に渡すわけにはいかないので、急遽授業を担当することになった教員も入れるよう、「クイックアクセス」はオンにしておいてください。
ブレイクアウトルーム(手作り)
2022年1月現在、有料版のWorkspaceではGoogle Meetにブレイクアウトルームが実装されています。手作りの簡易版ではありますが、似たようなことは実現可能です。Google Meetを起動し、「新しい会議を作成」→「次回以降の会議を作成」でURLが生成されます(青色選択部分)。こちらをスプレッドシートか何かにコピー&ペーストし、作りたい班の数だけ繰り返します。Google Meetのリンクは最後に使用してから365日という有効期限があるので、授業で日常的に使う分にはそうそう期限切れにはなりません。このURLのリストを生徒と共有し、教員が班分けの指示をすれば疑似的なブレイクアウトルームでのグループワークが実現できます。さらに生徒のステップ数を減らすのであれば、スプレッドシート上の班番号とURLのリストをGoogle Meet内のチャット欄に張り付ければ、生徒はそこからリンクを踏むだけでブレイクアウトルームに移動できます。
リアルな空間における授業用端末のレイアウト例
A.黒板の前で授業を中継する
学校でオンライン授業を行う、すなわち黒板を使った対面授業を中継する場合、三脚などで黒板が映る位置に端末を用意して授業を行います。または、GoogleスライドやPowerPointなどでスライド投影したものを指さしながら授業を行います。
このとき、注意点はカメラ・マイク・スピーカー・モニタの位置です。黒板が映るように端末を設置してそこで音声を拾うと、当然授業者から離れています。普段、教室の後ろまで届くように声を張って授業をしているので、たった数m先の端末のマイクに声を拾わせるくらい問題ないのかもしれません。しかし、黒板から離れた位置のモニタを授業担当者が視認するのはかなり難しいです。生徒がチャットを送ったり、「挙手」機能を使ったことになかなか気づけません。生徒がマイクをオンにして何か問いかけていても、教員の大声にかき消されて気づくことができないかもしれません。また、黒板のみではなく、PowerPointなど別のアプリケーションを同一端末で操作するとなると、授業中に一切Google Meetの画面が見えなくなります。オンライン授業において生徒の状況を授業担当者が把握できなければ、生徒は動画授業サービスを視聴していたほうがよいことになりますから、これは避けなければならないことです。
これらの解決策として3つの案を紹介します。
①Bluetooth接続のマイク付きイヤフォンを用いて音声を入力する
上記の問題のうち、マイク・スピーカーだけを解決する策です。マイク付きイヤフォンによって音声の入出力を近くにすることで問題を解決します。Google Meetにおけるマイク・スピーカーは会議開始前の歯車マークの「設定」か、会議中に三点メニューから「設定」を開くと選ぶことができます。授業をする前にテストをしてみるとよいでしょう。この配置ではモニタは遠いままなので生徒の挙手・チャットに気づけない問題は解決できませんが、音声だけでも生徒の声を拾えることで生徒把握の一助にはなるでしょう。
②USB接続のウェブカメラのみを黒板から離れた位置に置き、PCを教卓など近くに配置する
この配置にすると上記の懸念事項がほとんど解消できます。マイク機能付きのウェブカメラを接続するとマイク入力が遠いウェブカメラになりますので、手動でPCのマイク入力に切り替えたほうがよいです。この場合においても、別アプリを全画面表示で使ってしまうと挙手・チャットは見えません。
③端末を2台準備し、カメラ用と音声・チャット用に分けて使う
学校によって教員が使える端末の状況が異なります。例えば個人の所有するスマホやタブレットを学校のWi-Fi回線につないでもらえるのであれば、上記のUSB接続ウェブカメラの案より実現可能性が高いかもしれません。1台をカメラとスライド投影などのアプリ投影用に割り切り、もう1台でGoogle Meetのみを開きます。こうすることで後者の端末では生徒と全く同じ画面になります。「自分の今やっている授業は生徒にどう見えているだろう」という不安もその場で解消できるので、授業がしやすくなるでしょう。
B.対面式とは異なる授業をデスクで展開する
学校または自宅などにて、黒板を使わずにデスクで完結する授業形態です。新型コロナウイルス感染防止のためには全教員がこちらのスタイルを実現し、出勤することなく実施できることが望ましいです。しかし、授業をする以上、声を出すことは避けられず住宅環境によっては自宅での実施が難しいことも学校側は理解する必要があります。私自身も適切なマイク入力環境を作れば小声でも授業はできるはずなのは分かっていても、ついつい大声になってしまう教員としての習性が染みついてしまっています。
デスクで完結させる授業形態においても、端末1台で内臓のカメラのみではやはり教材とGoogle Meet上でのコミュニケーションの共存が難しいです。PowerPointなどでスライドショーを行いながら、生徒がマイクで何か言わない限り状況が把握できないというのはかなり厳しい環境です。ここでは、教材の提示方法に合わせて4案を紹介します。
①-1 PC上で資料提示:スマホやタブレットなどでGoogle Meetを開く
上記A③とほぼ同じです。PCを資料提示のために用いてカメラやマイク入力もすべてPCで完結させます。そのうえで、スマホやタブレットから同一アカウントで同じMeetに接続し、生徒と同じ環境で状況把握をします。自宅で実施するのであればこれがもっとも簡単な方法だと考えられます。しかし、Google Meetの機能としてタブレット版よりPCブラウザ版のほうが充実しているため、可能であればPC2台が望ましいです。
①-2 PC上で資料提示:PCに外部モニタを接続する
Google Meetの画面共有は「ウィンドウ」を選択できますので、生徒に提示したいアプリケーションのウィンドウだけを共有し、授業担当者のPC上ではGoogle Meetも見える状態にしておきます。ただし、プレゼンテーションソフトを使うとスライドショーが強制的に全画面表示になるので外部モニタを設定しておくとそのあたりの操作がスムーズになります。家庭においても通信への負荷を考えるとGoogle Meetへの接続が1台だけなので上記①-1より小さいです。モニタさえ手に入れば可能なスマートな方法です。
②タブレット(iPad)で資料提示(私はこれでやっています)
PCでGoogle Meetにアクセスしてカメラ・マイク・チャットなどをすべて担い、iPadはカメラ・マイクをオフにして画面のブロードキャストで画面共有をかけます。普段の授業では教室のプロジェクタを用いて投影したものに書き込みをするスタイルですが、これをiPad上でPDFファイルに「マークアップ」を用いて自由に書き込みを行います。特別にアプリを使用するわけではなく、iOSに入っている機能のみで完結するので、手軽に行える方法だと言えます。手元でiPadに手書きを書き込みつつ、PC上でそれがきちんと反映されているかを確認しながらトークをします。カメラ入力をPCにしているので、喋るときは前を向いて生徒の表情やチャットも見ながら授業を展開します。上述の通りGoogle Meetを動かすのはPCブラウザ版のほうが良いので、PCとタブレットどちらでも資料提示ができるのであればこの②のスタイルをおススメします。
③手書きで資料提示
授業中に教員自身の表情が見えなくなることの是非は置いておいて、もっとも手軽にデスクで資料を見せる方法です。PCからウェブカメラを繋ぐか、スマホを机上の三脚などで固定し、手元のみが見える状態にしておきます。黒板に大きな字を書く代わりに、机上の紙に文字や図形を書くことで対面の黒板授業に近いことができます。教員の身振り手振り、表情などでの情報伝達が遮断されてしまいます。しかし、実はこの方法がもっともストレートに資料を提示しつつ、PC上で生徒のチャットや挙手の反応を見やすい方法とも考えられます。前述の黒板の前で授業をして生徒の反応を見逃すより、この方法で生徒の反応を拾うほうを優先したほうが良い授業展開ができると考えられます。
おわりに
せっかくの双方向のビデオ会議アプリを用いての授業なのに、一方通行の動画と同じ授業展開はあまりにもったいないです。客観的に評価を受ければ、教員がリアルタイムで一方通行の授業を展開するより、NGテイクを重ねながら作り上げた動画授業サービスのほうが質が高いのは当然でしょう。私は動画のプロたちに勝てる自信が全くないので、今までもこれからも動画授業づくりはしません。教員が授業動画を作っても、やはり撮影・動画編集の素人である教員がつくるものより、プロの動画授業サービスに分があるのは自明なことだと思います。学校が行うオンライン授業で特に力を入れるべきは生徒把握です。一人ひとりのキャラクター、クラスの雰囲気を把握しているからこそそれに合わせた臨機応変なトークで授業を作りましょう。
お問い合わせはこちら
本コラムに関するお問い合わせはこちらからよろしくお願いいたします。
Chromebook導入のポイントが分かる資料がダウンロードできます。
資料の内容
〇Chromebookとは?
〇推奨アプリケーションのご紹介
Google Workstation for Education / CEU /
Classroom 等
〇三谷商事オリジナルサービスのご紹介
・導入&保守サービス
・CEUサポート
Google Workspaceサポート
・端末障害サポート 等
上記以外も有益な情報を公開しています。